質問1(大気):事故直後、雪は降っていなかったのでしょうか。もし、雪が降っていたならば、雨の場合とどのような違いがあるのでしょうか。
回答:当時、東北や群馬で雪が見られました。雨と雪とでは表面積や形状が違うので、沈着(落下)の速度が異なります。その速度は低温になるほど大きくなる可能性があり、シミュレーションによれば、2011年3月15日と20日にそれぞれ福島県北部と東北に雪によりセシウムが落下した可能性があります。ただし、雪のプロセスは雨以上に複雑で十分に解明されていません。実験・観測データも少なく、さらなる調査が必要な分野です。(回答者:堅田)
質問2(大気):セシウムは最大どれぐらい遠くまで飛んで行ったのでしょうか?
回答:2011年3月に放出されたセシウムは、北半球全体まで広がりました。事故後初めに観測されたのはアメリカで、その後、ヨーロッパ、アジアで観測されました。ただし、海を渡る間に希釈や雨による除去が起こるのでこれによる被ばくの影響は無視できるレベルです。(回答者:堅田)
質問3(木材):今日は主にスギのお話でしたが、シイタケ原木にも利用されるコナラやクヌギなどの広葉樹はどうなっていますか?例えば木の年齢等で変化はしますか?
回答:コナラのデータになりますが、原発事故前からある成木の場合、放射性セシウム濃度は事故後5年くらいは増加傾向にありましたが、最近では概ね頭打ちになりました。なぜ増加したのか、推測は色々ありますが、確かな理由は残念ながらわかっていません。
あとは、加齢による変化は十分にはわかっていませんが、樹皮と木部をあわせた幹全体の濃度は、萌芽更新したてよりも直径10センチ程度になったくらいのほうが低いという傾向があることは確認しております。(回答者:大橋)
質問4(木材):樹体内の放射性セシウムの分布・動態は、樹木の個体サイズによっても変化すると考えられないでしょうか。もし個体サイズによる違いがあるとすれば、小径の個体と大径の個体間にはどのような差があると予想されますか?
回答:個体サイズによる違いはあると考えられます。スギの心材への蓄積という点では、幹が太く心材が大きいほど遅いです。ただ、これは遅いというだけで、時間が十分経過した後の最終的なセシウム濃度はあまり変わらないと考えられます。あとは根からの吸収という点では、成長速度が速いものほどセシウムを多く吸っているといことを示唆する結果が得られています。(回答者:大橋)
質問5(木材):森林の除染のために森林を伐採する予定がある、ということを以前に聞いたことがあるのですが、現在森林の除染についてはどのような予定がありますか?
回答:現在では森林内で樹木に分布しているのは数%しかありませんので、皆伐したとしてもほとんど除染になりません。そういった除染の仕方をする予定があるというのは私の知る範囲では聞いたことはありません。(回答者:大橋)
質問6(木材):樹皮のセシウム濃度が高いことは新しくできた樹皮のセシウム濃度が高いためでしょうか。それは根から吸収されたセシウムでしょうか。
回答:樹皮の放射性セシウム濃度が木部よりも10倍以上高い場合は、それは表面の汚染が残っているのが原因だと考えられます。新しくできた樹皮は大体木部の2倍程度です。原発事故前からある木でしたら、それは1年目に表面から吸収されたものが樹木内をまわりまわって来たものと、新しく根から吸われたものの両方が混ざっています。区別はできません。(回答者:大橋)
質問7(木材):木部と樹皮に多いということですが、薪利用後の灰は概ねどの程度の濃縮と考えるべきでしょうか。
回答:実証実験では182倍に濃縮されると報告されています。薪の指標値が40Bq/kgに設定されているのは、8,000÷182=44≒40が根拠となっています(林野庁HP https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/shintan4.html)。(回答者:大橋)
質問8(木材):心材は死細胞で濃度変化がゆっくりだというお話がありましたが、核実験由来のCs-137はどれくらいだったでしょうか。心材のSr-90濃度もお知らせ下さい。木材が灰になったとき、Cs-137もSr-90も濃縮されますので、知っておきたいです。
回答:スギの木部では、核実験由来と考えられるCs-137は約0.5から2Bq/kg、Sr-90は約0.5から15Bq/kgの範囲で報告されています(Momoshima et al. 1995. Journal of Environmental Quality; Kagawa et al. 2002. Journal of Environmental Quality; Katayama et al. 2006. Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry)。(回答者:大橋)
質問9(土壌):興味深く拝聴しました。土壌の0-5cm層にはフレイトエッジサイトで放射性セシウムの吸着がされているとのことでしたが、5cm以下の層にもフレイトエッジサイトが十分に存在する(つまり、鉱質土壌には一般的には含まれている)ものなのでしょうか。
回答:5 cm以下の層にも、フレイドエッジサイトは十分に存在すると考えられています。以下の論文は、私たちの調査地でRIP(放射性セシウム捕捉ポテンシャル、フレイドエッジサイトの量と相関するパラメーターです)を測定した例です。Fujii et al. (2019) Journal of Environmental Radioactivity 198, 126-134. https://doi.org/10.1016/j.jenvrad.2018.12.025(回答者:眞中)
質問10(土壌):土壌を採取された場所はどこでしょうか? また、平地でしょうか、山の斜面でしょうか?
回答:今回お示ししたスギ林の調査地はいわゆる山の中に位置し非常に起伏に富んでいます。その調査地のなかの平坦なところだけでなく、斜面でもサンプルを取っており、その平均値を示しています。森林土壌の137Csもばらつきが非常に大きいです(回答者:眞中)
質問11(土壌):落葉層の有機物に一時的にCsが吸着するとして,溶存有機物にCsが吸着して土壌下方に移動することはあるのか。また,そのようなことがあるとして,それは有機物に電気的に吸着したCsなのか,それとも粘土と有機物の複合体のようなものの中にCsが取り込まれたり,複合体中の粘土にCsが吸着しているのか。
回答:落葉層から鉱質土層への水に伴う137Csの移動に関しては、ライシメーター(水を採取する装置)による研究があり、やはり事故から数年でその移動量が少なくなっていると報告されています。(例えば、Koarashi et al. (2016) Chemosphere 165, 335-341. https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2016.09.043)。一方で、粘土鉱物と有機物の相互作用については、まだ分かっていないことも多いです。フレイドエッジサイトが有機物に覆われることで137Csが固定できなくなったり、有機物の構造中に137Csが物理的に隔離されたりする可能性も指摘されています。ただし大まかな137Csの分布やその経年変化は、今回のお話しの流れで説明できると思います。(回答者:眞中)
質問12(土壌):土壌のセシウム量は半減期で期待される現象を示さないように見えますが、粘土の層間のセシウムが動きにくいのであれば、今後、半減期によって濃度と量が変化していくのでしょうか。それとも、今後もさらに層間のセシウム量が増えていく可能性があるのでしょうか。
回答:私たちのグループは半減期の短いセシウム134も測定しています。こちらについては、落葉層においても鉱質土層においても、この10年間で大きく減少しています。セシウム137についても、半減期にそって減少していくと思われますが、数年のスケールではサンプル間のばらつきや上部からの移行などの違いなどもあるので、まだ見えにくいのかもしれません(回答者:眞中)
質問13(土壌):(聞き逃してしまったかもしれませんが)穴を掘った位置によって傾向が変わったり,というのはないのでしょうか?例えば非根圏,根圏の違いなど…表層でほとんど吸着されるということなので差はないのかもしれませんが,サンプル差があれば教えていただきたいです.
回答:今回の私たちの土壌サンプルは、例えばスギ林の調査地では全体で100m四方程度の広い空間スケールでサンプリングを行っています。この中でも、例えば傾斜などの地形の影響で、137Csの量は大きくばらついています。一方でご指摘の根圏とは、根によって影響を受ける土壌のことであり、定義にもよりますが根の周り数mm~数cm程度の限られた領域です。今回の私たちのサンプルの取り方では、残念ながらその影響は分かりません。ただし、樹木がどこまで根を伸ばして137Csを吸収しているのか、根から分泌される有機酸や微生物の影響は、など、まだ分かっていないことも多いので、この点については引き続き研究が必要です。(回答者:眞中)
質問14(土壌):粘土鉱物で固定されているセシウムは葉酸などでとけださないのですか。
回答:葉酸は栄養学的なビタミンのことなので、根などから分泌される植物起源の有機酸に置き換えて回答します。有機酸によって137Csの溶出量が増えるという研究は存在します。ただしこの時溶出する137Csは、粘土鉱物の構造末端や、鉄やアルミニウムの酸化物に起因するものが多く、フレイドエッジサイトに固定された137Csまでが即座に放出されるということは無いようです(回答者:眞中)
質問15(土壌):本日の発表は可溶性セシウムの動態でした。セシウムボールについての研究はどうなっていますか?
回答:不溶性放射性粒子(いわゆるセシウムボール)は、原子炉の建材などに由来するガラス質の微粒子(数μmくらい)です。特に地球化学の観点から、起源(どの原子炉に由来しているか)や鉱物学的な特性に関する研究が進んでいます。すぐには水に溶けませんが、実験室での溶出実験などから、長い時間をかけて放射性セシウムが溶け出す可能性が指摘されています。森林土壌に関しては、原発近くの土壌や樹皮などから発見されたという報告があります。ただし、この粒子を単離する作業に非常に手間がかかることなどから、現存量やその分布、生態系への影響などについては、まだ分かっていません。(回答者:眞中)
質問16(土壌):鉱質土層の土壌の種類によってずいぶん違うのでは 例えば砂土壌など。
回答:はい、土壌の種類による違いはあります。東北地方の様々な種類の土壌について、RIP(放射性セシウム捕捉ポテンシャル、フレイドエッジサイトの量と相関するパラメーターです)を調べた研究があり、例えば放出されたばかりの火山ガラスでは137Csの固定機能が低い、などの例があります。ただしそれでも、森林に放出された137Cs量と比べて、このフレイドエッジサイトの量は十分に大きく、今回私が示したような鉱質土層に強く固定される、という傾向はあまり変わらないようです。実際私たちは、砂質の土壌を含む様々な場所でサンプリングを行っていますが、大まかな傾向は同じです。Yamaguchi et al. (2017) Soil Science and Plant Nutrition 63, 119-126 https://doi.org/10.1080/00380768.2017.1294467(回答者:眞中)
質問17(土壌):本日は、ありがとうございます。福島で山腹崩壊のような自然災害が発生した場合、土壌に固定されたセシウムは希釈されるものなのでしょうか?フレイジエッジサイトに取り込まれたセシウム137を回収したい場合は、セシウム137を上回る陽イオンを土壌中に送り込めば可能、との理解でよろしいでしょうか?
回答:山腹崩壊などは、私たちの調査地点では起きていませんが、基本的にはそのような理解で良いと思います。(以下、内容がやや専門的になります)粘土鉱物の層間の137Csを交換できるのはどのような陽イオンでも良いわけではありません。例えばカルシウムイオンなどは、配位した水和水が障壁となって、層間に入ることができません。そのため、候補としてはカリウムイオンやアンモニウムイオンなどとなります。
そして原理的には大量のこれらの陽イオンを土壌に散布することで、137Csを追い出すことができますが、現実的にはかなり難しいです。今回の発表では、137CsをBq/kgという放射能の単位で表しています。これを物質量(モル)に換算して比較すると、土壌中の137Csの量は、カリウムの数千万分の一、安定セシウム(133Cs)と比較しても数千分の一以下という微量です。そのため、137Csの回収方法としては非常に効率が悪い上に、他の陽イオンの大量溶出や、植物・微生物の生育阻害が先に起きてしまうと思われます。なお実験室にて土壌サンプルから137Csを回収する方法としては、粘土鉱物自体を強力な酸などで溶解させる方法もありますが、これも大量のサンプルを処理することは難しい上、非常に危険な薬品の使用と廃液処理のリスクが付いて回ります。(回答者:眞中)
質問18(水):2011年11月の台風で 阿武隈川河川敷の土壌の放射能濃度が急激に上昇したが、それは何が原因でと考えますか?
回答:森林に降ってきた放射性物質はまず樹冠にトラップされ、その多くが、その後約半年の間に樹冠から林床、土壌へと移行したと考えられます。2011年の秋は最も流出しやすい地表付近の土壌に放射性セシウムが多く存在していたタイミングでした。数回あった大きな台風で流出した土砂には比較的多くの放射性セシウムが含まれていたと考えられ、一部は阿武隈川の河川敷に堆積したものと考えられます。それらが河川敷の堆積物の濃度上昇に寄与したと考えられます。(回答者:岩上)
質問19(水):河川堆積物への放射性セシウムの移動、蓄積についての知見があれば是非教えてください。
回答:岩上が紹介させていただいたのは、一番上流での話ということになりますが、阿武隈川の中・下流域などで、河川敷の堆積物の調査も行われています。台風などの大きな雨のときに上流から土砂が出てそれが下流側で堆積するわけですが、ある程度河川敷に蓄積されている。あるいはダムの底に蓄積されているといったことが報告されています。(回答者:岩上)
質問20(水):林床の有機物(落葉落枝)と、渓流中の粗大有機物のセシウム137濃度を比較すると、どちらが高かったでしょうか。渓流中の粗大有機物の方が常に溶脱の作用を受けるため、林床よりも溶存態のセシウムが失われ、濃度が低くなりそうな印象を受けましたが、実際はいかがでしょうか。
回答:林床の落葉落枝と、渓流中の粗大有機物について、スタートは同じと考えられるのですが、林床で集めた枯葉をメッシュの袋に詰めて渓流にさらして、濃度の変化を調べるような実験が行われています。やはり濃度の低下が報告されています。私の調査においても同様に、渓流中の粗大有機物の方が濃度が低い結果でした。一方やってみてわかった、面白い点として、針葉樹の葉は林床に落ちてからあまり移動しないようです。摩擦力が強いということでしょうか。林床に落ちて、風などで水の流れにたどり着く葉は広葉樹の葉がほとんどでした。その結果として粗大有機物のサンプルには針葉樹の葉よりも広葉樹の葉が多く含まれていて、林床の落葉における針葉樹の葉と広葉樹の葉の割合とは異なっているようでした。その意味では単純には比較できないかもしれません。(回答者:岩上)
質問21(水):河川?からの採水試料で懸濁物と粗大有機物を分けて定量するには,採水試料をいきなりろ過するのではなく,先に採水試料の上に浮いているものを粗大有機物として回収,測定を行っている感じでしょうか。懸濁物と有機物の分取の方法についてさしさわりなければ教えていただけますと幸いです。
回答:懸濁物は”浮遊砂サンプラー”を用いてサンプリングしており、粗大有機物は”有機物用のネット”を用いてサンプリングしています。どちらも水試料とは別に採っています。水試料はろ過して懸濁物を除去しています。また粗大有機物にも砂がたくさん付いていますので、それらは実験室でよく揉み洗いして落とす作業を行いました。(回答者:岩上)
質問22(水):懸濁態、溶存態、粗大有機物どれも減少していることが分かりましたが、今後も同様な減少傾向を示すのでしょうか。もしくは、三つそれぞれで異なった減少傾向を示すのでしょうか。
回答:懸濁態、粗大有機物は、もっと低下していくと考えられます。一方、総合討論では、溶存態はもっと低下していく、というようなコメントをしてしまいましたが、そろそろ溶存態は、これ以上低下しない”平衡状態”にさしかかってきているものと考えられます。もう十分に低下したけれど、森林に放射性物質は存在していて、少しずつは水にも移行し続ける状態になりつつあると考えられます。懸濁態、粗大有機物も同様に、ある程度まで濃度が低下したら、これ以上低下しない平衡状態にたどり着くはずです。(回答者:岩上)
質問23(水):ご回答は後で構いませんが、水の放射能汚染を濁度計で測るという話を聞いたことが有りますが、確かに現状の低線量では(特に流水では)放射能で測るのは困難ではないかと考えます。どのようにお考えになるのかお教え頂けると有難いです。
回答:”水の放射能汚染を濁度計で測る”というのは、今回の私の話では懸濁態と溶存態を別々のものとして捉えていたところを、懸濁態と溶存態を合わせて”水”として捉えてのことかと思います。現在の地下水、渓流水、河川水等は十分にセシウム濃度が低いと言えると思うのですが、ゼロではないです。ゼロでないのであれば、ということで阿武隈川の河川水を現場で数百リットルろ過し、イオン交換樹脂にセシウムを吸着させて(ある種、濃縮させて)河川水のセシウム濃度を測定するような努力がなされています。もうしばらくは、こうした方法で調査が続けられるものと考えています。(回答者:岩上)
質問24(キノコ・山菜):こうたけ、コシアブラなどセシウム137が減少しないのはなぜ?
回答:セシウムの土壌中の分布が影響している可能性があります。菌糸が分布し、養分を吸収している場所でセシウムが増えるときのこのセシウム濃度が増えると考えられます。土壌中のセシウムは事故初期より増えており、また大きく変化しないことが影響していると考えています。(回答者:小松)
質問25(キノコ・山菜):キノコ中のCs-137濃度が増加傾向なのはどんな原因が推定されますか?
コシアブラ等山菜のCs-137濃度の経年変化はどうな状況でしょうか?
回答:セシウムの土壌中の分布が影響している可能性があります。菌糸が分布し、養分を吸収している場所でセシウムが増えるときのこのセシウム濃度が増えると考えられます。土壌中のセシウムは事故初期より増えており、また大きく変化しないことが影響していると考えています。なお、種による違いもありますが濃度が上昇傾向にあるのは、菌根菌の種が多いとみられています。また、山菜や腐生菌の種はどちらかというと変化は小さいかやや減少傾向にあると見られます(コシアブラは少し増加傾向があるかもしれませんが、年変化傾向もかなりばらつきが多いため、確実に傾向を言えない状況です)(回答者:小松)
質問26(キノコ・山菜):1. なぜ野生きのこは、種類で濃度が異なる傾向がわかったのに、今でも種類を区別せずに出荷制限がかかるのですか? 2. 以前、新聞の記事で、福島第一原発事故由来でないCs-137で濃度が高い野生きのこも出荷制限がかかるというのを読みましたが、そういうものは多いのですか? 3. なぜ日本では外国のように基準値にマイナー食品の基準がないのですか? 4. Cs-137の濃度が下がらないなら、これからずっと出荷制限は解除されないということですか? 5. 基準値を超えていても、自家消費ならOKなのでしょうか?
回答:1. 種による違いを論文で示しましたが、いくつかの不確実性があるため、今回の結果だけでは出荷制限を見直すような提案をすることは難しいと考えています。新たなデータセットで比較するなどを今後検討しています。また、きのこの出荷制限を区別せずに行っている理由として、もう一つはきのこの種類が国内だけでも4000-5000種あり、種の区別が難しいことなども挙げられています。
2. 日本の場合1950-70年代に行われた大気圏核実験によって降った放射性セシウムが存在します。森林総研でも原発事故前に採取した試料から事故前の現象に由来するセシウムの分布を調べた研究が発表されました。https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2021/20210112/index.html
きのこに含まれるセシウムに由来の違いによる分別は直接的にはないので(量や分布による違いはあると思いますが)事故前由来のセシウムで基準値を超える可能性はあります。
3. なぜ品目ごとに基準値が異ならないのか、については情報を持っていません。なお、「畜産物中の放射性物質の安全性に関する文献調査」http://www.frc.a.u-tokyo.ac.jp/pdf/report_all.pdf こちらのp60より各国・国際機関における規制・基準値についての説明がありますが、旧ソ連では品目ごとの基準値を設定していますが、EU等では一般食品については一様に基準値を設定しています。またノルウェーではトナカイの肉の基準値のみ引き上げているという例がありますが、こちらは文化的な背景があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sraj/29/2/29_129/_pdf
4. そのようになります。
5. 基準値を超える食品の自家消費については禁止されてはいませんが、自治体などによっては出荷制限の品目の自家消費について自粛を要請しています。また、無償の提供であっても出荷に当たります。(回答者:小松)
質問27(キノコ・山菜):交換性のセシウムは時間とともに粘土成分に強く固定化され植物への移行率が下がってきていると聞いています。キノコや山菜では移行率が変わらないのはなぜでしょうか?固定化されたセシウムを遊離させる機構があるのでしょうか?
回答:きのこと植物では土壌からセシウムを吸収する能力が違う可能性があります。ご指摘のようなメカニズムはセシウムに限らず一般的な元素についてもいえると思います。コシアブラは山菜の中で突出してセシウム濃度が高く、共生微生物がCs吸収促進にかかわっているという研究もありますが、まだよくわかっていません。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X15301752(回答者:小松)
質問28(キノコ・山菜):山の尾根で生えるキノコは、谷筋で生えるキノコよりも安全性は高いのでは。
回答:今後の研究課題ですが、どちらかというと尾根のほうが濃度が高くなるかもしれません。土壌の養分が少ないためです。(回答者:小松)
質問29(キノコ・山菜):キノコの放射性セシウム濃度の減少が今後も見通せないと発表にありましたが、それは具体的に何故か教えていただけますか?
回答:これまでの調査から大きな変化が認められていないことからです。背景として考えられるのは、特に菌根菌の場合、セシウムを吸収する土壌のセシウム濃度に変化が認められないことが考えられます。(回答者:小松)
質問30(キノコ・山菜):キノコ中のセシウム137放射能濃度が増加傾向にありそうとの話がありました。その原因として、森林中でセシウム137の分布が変化したことによる変化なのでしょうか?たとえばキノコが吸収している場所での存在量が増えたなどを想像しました。きのこの生理が変わったとは思えないです。
回答:ご指摘の通り、時間経過とともにコウタケが吸いやすい位置にセシウムの分布が変化した、ということが考えられます。ただ分布以外にもセシウムの状態なども影響していることも検討する必要があると考えています。例えば東京大学の山田先生は、総説の中で菌糸やその周辺にセシウムを保持するメカニズムの可能性について言及しています。https://www.jstage.jst.go.jp/article/suirikagaku/62/5/62_81/_article/-char/ja/(回答者:小松)
質問31(キノコ・山菜):山ぶどうなど、果実にはどの程度蓄積されますか?
回答:山ぶどうなどの果実への移行については福島第一原発事故後十分には検証されていないと思います。ただ果実類へのセシウムの移行についてはチェルノブイリ事故後のヨーロッパで多く行われています。
https://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/trs472_web.pdf
こちらは英語ですが、IAEAがこれまで森林を含めた環境でのセシウムの移行について2010年にまとめたレポートです。こちらの103ページにきのこの面移行係数が、105ページに果実類の面移行係数が示されています。面移行係数とはきのこや果実のセシウム濃度(Bq/kg)を土壌の面積あたりのセシウム量(Bq/m2)で割った値で、m2/kgという見慣れない単位の係数なのですが、この値に土壌セシウム量をかけるとそこで採取されるきのこや果実の濃度が予想できるようになる、という指標値です。このきのこの値と果実の値ですが、平均の求め方が違っていたり、どちらも乾燥重量あたりの係数だったり、と単純には比較できないのですが、そこまで両者に大きな違いは無いのではないかと考えられます。なお、104ページにはこうした果実類の濃度は畑で作られる農産物よりは高い、と書かれています。(回答者:小松)
質問32(キノコ・山菜):コウタケの137Cs濃度と137Csの表層土壌への初期沈着量との間に相関はあるでしょうか。
回答:相関はあります。単純に10倍沈着量が異なれば平均的には同じきのこの濃度は10倍異なると思われます。ただし、講演でも述べたようなきのこごとの濃度のばらつきがあること、また発生する土壌の環境によってもきのこの濃度は大きく影響を受けるため、実際は沈着量だけで単純に比較はできないことが多くあると思います。(回答者:小松)
質問33(キノコ・山菜):1. コウタケの菌糸どれくらいどれくらいまで広がっているのですか、2. 高線量のキノコを取り続けたらその辺のセシウム濃度が下がるのですか、3. 粘土鉱物に着しますがセシウムのホットパーティクルはどうなんでしょうか、ホットパーティクルの地域と濃度はわかるでしょうか?
回答:1. コウタケの菌糸はおそらく土壌表層付近に多く分布するのではないかと考えられますが、正確な情報はわかりません。2. きのこではありませんが、菌糸をつかってセシウムを吸収する、という試みをいくつかのグループが行っています。
https://jopss.jaea.go.jp/search/servlet/search?5065370
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suirikagaku/62/1/62_119/_article/-char/ja/
3. ホットパーティクルについてはすみませんが、十分な知見を持っていません。今後地域的な分布や生態的な役割(イオン態のセシウムとの違い)が分かってくるときのこへの影響についても分かるかもしれません。(回答者:小松)
質問34(キノコ・山菜):キノコの栽培でカリを周りに加えて栽培すると放射性セシウムの濃度が下がると考えられますが、そのような試験はされていますか? コウタケの栽培環境にカリを加えるような試験はされていますか?
回答:コウタケを対象としてはいませんが、少しそのような研究を始めています。成果がまとまりましたら改めて報告したいと思います。(回答者:小松)
質問35(キノコ・山菜):キノコの放射性Cs濃度は野菜類よりも高いように見受けられます。キノコの放射性Cs濃度が高くなるメカニズムは何でしょうか?土壌等からの移行係数が高いのでしょうか?
回答:野生きのこと畑で作る野菜(山菜ではない)の濃度の比較という質問と理解してお答えします。いくつか原因があり、(1)菌類やセシウムを含む養分を吸収する能力が植物より高いこと、(2) 森林はセシウムが多く残る性質があること、(3) 森林は施肥などの管理が行われておらず、農地よりもセシウムを吸収しやすい条件にあること、などが考えられます。(回答者:小松)
質問36(キノコ・山菜):震災直後から様々な研究が東日本全域のみ対象になっていますが、長野県以西の東海中部地方、近畿、四国、九州、沖縄などの西日本と北海道におけるキノコ、山菜への取り込み状況は研究されていますか。小松さん以外でも事例があれば出典なども含めて教えてください。
回答:東京大学の山田先生が各地の東大演習林において野生きのこの調査を行っています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/suirikagaku/62/5/62_81/_article/-char/ja/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/radioisotopes/62/3/62_141/_article/-char/ja/(回答者:小松)
質問37(キノコ・山菜):きのこは乾燥で計らないのですか
回答:私が調査する際は、乾燥して測定しています。ただ自治体が行う放射能検査は一般に生の状態で測定しています。これは、食品として扱う場合の濃度が重要となるためです。(回答者:小松)
質問38(キノコ・山菜):Cs-137が経年的に増加傾向にあるとのことですが、これは減衰補正したデータでしょうか?補正していないとすれば、増加傾向はさらに大きいということになります。
回答:今回のセシウム137濃度の結果は壊変補正していません。なので、ご指摘のように特定の日(例えば事故時)に壊変補正した場合はセシウム137濃度の変化傾向はより正になります。ただセシウム137の減少率は2%なので、お見せしたグラフをすべて事故当時に壊変補正したとしても大きな変化は認められないと思います。今回壊変補正しないグラフを示したのは、その時点での放射性セシウム濃度の状況を示すことが被ばく防護の観点からは重要であると考えているためです。一方でセシウムの森林内での循環として捉える場合はご指摘の様な壊変補正した値で比較する場合が多いと思います。(回答者:小松)
質問39(キノコ・山菜):菌根菌キノコが腐生菌キノコより放射性セシウム濃度が高いのはなぜでしょうか。
回答:一般に言われていることとして、菌根菌が養分を吸収する土壌と菌根菌が養分を吸収する枯れ木や落ち葉の放射性セシウム濃度の違いが挙げられます。ただ、これらは状況から言われていることで本当に説明できるのか、について十分には検証されていません。(回答者:小松)
質問40(キノコ・山菜):2019年の論文で、航空機によるモニタリングで野生キノコ濃度を推測できるかも知れないということでしたが、あの両対数グラフではその推測は危険だと思いました。その後、どのように研究を進めていらっしゃいますでしょうか。出荷制限の規制や解除に関連した研究なのでしょうか
回答:ご指摘の通り、Komatsu et al. (2019)の結果のみで出荷制限の方法を変えることまで提案することは難しいと考えられます。その理由としては、(1) 食品検査データであるため、採取位置や種類に偏りがあり得ること、(2) 市町村単位での解析で予測が推定精度が低いこと、(3)年変化傾向を十分に読めていないこと、などが上げられます。そこで現在はそれらの問題を解決するような研究を進めています。(回答者:小松)
質問41(キノコ・山菜):キノコ 土壌に固定されている、137が減少しているにも関わらず、数値が下がらないのは?
回答:一般にきのこは植物と比較して様々な元素濃度が高い傾向があります。固定されているセシウムを吸収している、また土壌中の吸収可能なセシウムをかき集める、など何らかの方法で植物より効率的にセシウムを吸収していると予想されます。(回答者:小松)
質問42(キノコ・山菜):食用キノコについて基準値を下げる動きがあると聞きますが、これについてはどうお考えでしょうか?
回答:そのようなお話があることは新聞記事などから確認しています。ただ具体的にどのような方法で行うのか分からないのでお答えできません。(回答者:小松)
質問43(キノコ・山菜):原木しいたけの栽培で,きのこの移行係数は2.0とされていますが,菌の種類によって異なると聞きました。なるべく放射性物質が少ないきのこを作るためにはどのような特徴を持った菌が適しているのでしょうか。何か分かっていることがありましたら,教えていただきたく思います。
回答:本日のお話のように野生きのこの場合でも種によってセシウム濃度が異なるので、栽培きのこでも種によってセシウム濃度は異なると予想されます。ただ、私の知る限りではシイタケ以外の移行係数をしっかりと調べた研究はありません。他の種の研究としては、ナメコをヒノキ原木で栽培した例があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfs/98/3/98_128/_article/-char/ja
こちらはほだ場を変えるとナメコのセシウム濃度が変化したことを示しており、ほだ場の環境もきのこの濃度に影響すると考えられます。きのこの種類によって原木栽培方法もことなることから、栽培きのこのセシウム濃度は単純に種による違いだけでは説明できないかもしれません。また一方で栽培を工夫することでセシウム吸収を抑えられる可能性があるとも言えます。(回答者:小松)
質問44(キノコ・山菜):キノコや山菜のセシウム濃度が基準値より高くなるのは,野菜等の栽培系食物(飼料で育つ畜産物も同様?)であれば,土壌の空間線量を把握した上で,除染などが行われ,ある程度数値が管理された環境で栽培されるため,数値が低くなるという理解でよろしいでしょうか。
回答:「数値が管理された」という訳ではありませんが、除染に加え、施肥や土壌のかく拌、有機物が少ないことなどの管理によってセシウムが少なかったり、土壌のセシウムが吸われにくい状態にあることが理由として考えられます。たとえば、実験的に畑にコシアブラを植えた場合にセシウム濃度が低くなることが報告されています。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/37370a/gyoumu-houkoku-n.html
こちらリンク先のH28年度No.49のp29-30をご覧ください。(回答者:小松)
質問45(放射線影響):形態異常が発生した生物の次世代への影響はあったのでしょうか
回答:福島で採取された形態異常を持つヤマトシジミを実験室に持ち帰り、正常な個体と交配させると形態異常が遺伝したとの報告があります。ただし野生下では親子判別が難しいためそのような現象があったかどうかについて確認はされていません。(回答者:玉置)
質問46(放射線影響):今回の調査は被ばく世代についてだと思うのですが、次世代への影響はないと考えられますか?
回答:今回お見せした形態異常を示した昆虫は被ばく世代だと考えられます。次世代への影響があったのかについては野外でははっきりとはわかりませんが、2013年(事故後2年後)にはこのような異常を示す個体は見つかっていないことから、1) 形態異常個体は生存に不利なため淘汰された、または2) 放射線に対して適応しある程度の耐性を持ったため、異常を示さなくなった、の2つの可能性が考えられます。(回答者:玉置)
質問47(放射線影響):生物の形態異常は初期被ばくによるとのお話がありました。キセノン133が結構出ていて、外部被ばくが無視できないとおもうのですが、どのようにお考えでしょうか?
回答:Xe133およびI131からの放射線影響はあったと考えています。特に福島の事故ではXe133が大量に放出されておりますので、初期被ばくの主要因になったのではないかと考えております。(回答者:玉置)
質問48(放射線影響):奇形の昆虫とかが採取場所はどこでしょうか?16μSv/hr以上の場所だったんですか?
回答:形態異常の記載がある論文によると、空間線量率はヤマトシジミの採取場所では最大で3 μSv/hr、ワタムシでは6 μSv/hrとなっていました。どちらも16 μSv/hrよりは線量率の低い場所での採取です。事故初期には放射性ヨウ素やキセノンなどによるβ線被ばくがあったと考えられ、この影響については記載されておりません。(回答者:玉置)
質問49(放射線影響):突然変異はDNAレベルで起こることで形態異常は個体レベルで起きることという理解でよろしいでしょうか?ちょっとわかりにくかったので。
回答:突然変異は生物の見た目が変わること(形態変異)を含んでいます。ですので個体レベルでは形態変異を含む突然変異が起きます。DNAレベルではDNAを構成する塩基が変化することをDNA変異とか塩基置換などと呼んでいます。(回答者:玉置)
質問50(放射線影響):DNA 修復16μGyが、しきい値というお話でしたが、5μGy の当たりに直線から外れた物もありました。個体差を考慮すると、もう少し詳細な解析がいるのではないですか。
回答:はいその通りです。ある程度コントロールされた条件下での実験とはいえ野外での実験ですので、放射線以外に例えば地温の影響により結果が左右されます。これによる誤差を少なくするために実験点数を増やす必要があります。(回答者:玉置)
質問51(放射線影響):DNAの修復に関して昆虫は影響を受けやすいのでしょうか。人間をふくむ哺乳類への影響も同じと考えてよいのでしょうか。
回答:昆虫も人間を含むほ乳類もDNAの修復メカニズムは基本的に同じと考えて大丈夫です。ただしその働きの強さ(活性)は種によって異なります。例えば長寿命かつガンになりにくいハダカデバネズミという生き物では、DNA修復活性が他の生物よりも高いという報告があります。(回答者:玉置)
質問52(放射線影響):遺伝子組み換え植物の研究で、放射線の影響は16μSv/hまでは修復されるという話がありました。しかし、人間を含む動物はその放射線の影響を受けた植物が修復過程であるにも関わらず採取したり食べたりすると思います。生物濃縮についての研究結果をご存じでしたら教えてください。
回答:ご質問の内容を放射性セシウムの生物濃縮はあるのかという観点でお答えします。生物濃縮を考える場合にはセシウムの供給源が大事になります。水生生物の場合は水が、陸生生物の場合は土壌がこれに当たります。このような観点で見ると水生生物では生物濃縮が起きているのがわかっています。https://www.jrias.or.jp/books/pdf/201403_TRACER_TATEDA.pdf 一方で陸生生物の場合は土壌が供給源と考えると例えば植物での生物濃縮は起きません。これは土壌のセシウムが水に溶けているセシウムに比べて生物によって利用しにくいことや、土壌のセシウム濃度が水に比べて圧倒的に高いため濃縮を見ることが難しいことが挙げられます。(回答者:玉置)
質問53(放射線影響):福島事故の放射線で、ヒトへの影響はないと明言されていましたが、甲状腺がんの発症もあり、内部被ばくの影響はまだまだ不確実な領域なのではないでしょうか。放射線に敏感な野生動物の観察を続けて、遺伝子異常も含めて、更なる研究を続けて下さい。
回答:ヒトへの被ばくについては明確な基準値があり、住民の避難や食品の流通制限により野生生物に比べて低く抑えられたと考えております。形態異常が見られた昆虫は寿命が短いですが、長寿命の生物や樹木については長期被ばくの影響を注視する必要があります。特に裸子植物の放射線感受性は高いのでモミやアカマツなどの調査は継続する必要があります。(回答者:玉置)
質問54(放射線影響):シロイヌナズナの実験でわかったDNA修復のペースが損傷をうわまってしまう16μGy/hは、ほかの生物にも適用することはできるのでしょうか。あくまでシロイヌナズナの場合だけでしょうか。それとも植物ならある程度適用できるのでしょうか。
回答:基本的にはシロイヌナズナでの結果と考えていただいた方が良いです。ただし、過去の研究で植物の種間での感受性を調べた研究があります。これは半数が致死となる高い線量での実験ですが、今回使用したシロイヌナズナは比較的放射線感受性が低いという結果が出ております。ですのでこの指標を使って植物の種間の係数(感受性の違い)を出すことができれば他の植物とシロイヌナズナの比較が可能になるかもしれません。一方で動物に関しては細胞の構造から植物とは違うので単純に今回の結果を当てはめることはできません。(回答者:玉置)
質問55(放射線影響):p. 11 図 10,000 μSv/h 以上のところですが 16 μSv/h の値としている。一致しない。16 mSv/hではないですか。 それとも ,は小数点は、ですか。
回答:紛らわしい図ですが、この図の横軸は「総被ばく線量」を表しています。ですので単位は「μSv」で大丈夫です。横に書いてある16 μSv/hrはその場所での線量率を表しており、690時間の放射線処理をしておりますので、実際の総被ばく線量は約11mSv(11,000 μSv)になります。(回答者:玉置)
質問56(放射線影響):貴重な講演ありがとうございます。キノコ、山菜についてのご講演でしたが、川に住む魚類に関してはいかがでしょうか。
回答:川魚(淡水魚)については弊所の石井弓美子主任研究員が調査をしており、海水魚に比べて放射性セシウム濃度が下がりにくいこと、また川と湖では体内への放射性セシウム蓄積に関与する要因が異なることが示されています。詳しくは以下のリンク先を見ていただけると幸いです。http://www.nies.go.jp/whatsnew/20200228/20200228.html(回答者:玉置)
質問57(一般):調査地は明らかにできないのでしょうか。福島以外にも汚染地は多いと思うのですが。
回答:今回の発表ではわかりやすくお話しするため、一部で調査地の説明を省略しましたが、調査結果を報告している原典(科学論文)や報告書では明記しております。ご指摘の通り、福島以外にも放射性セシウムは飛散していますので、福島県を中心に調査を行っていますが、福島県外でも行っています。(回答者:橋本)
質問58(一般):課題がまだ残っていて、研究を進める必要があるのがわかりました。皆さまの研究所では、今後も研究を進める状況になっていますでしょうか。
回答:事故直後ほどの規模では難しいですが、今後も研究を継続する予定です。長く調査していくことが大切だと研究者の間では強く意識されています。チェルノブイリ事故の際には、欧州での研究は10年目ごろから大きく減少し、研究が継続されなかったと言われています。(回答者:橋本)
質問59(一般):主催者および講演いただいた方々へ。今回の資料をPDFで公開したり共有いただけませんか。10年目で終わりでもなく、現状を多くの方が知る機会です。震災後に生まれた子ども達は全く知らない場合も多いですし、福島県以外の方は多くが無防備な知識経験のままです。ぜひお願いします!!
回答:こちらにて公開いたしました。是非ご活用ください。https://shinrin-ritchi.jp/symposium/ (回答者:橋本)
質問60(一般):森林及びそこに棲息するキノコや山菜・野鳥獣については、汚染状況が複雑です。基本、モニタリングをしっかりやって下さい。そして、今回のような、情報提供をお願いします。「測定結果で判断」が、市民の姿勢です。「直ちに影響はありません・安全です・心配いりません」などの、言葉は、市民の腑には落ちません。
回答:今後の傾向を知るためにも継続してモニタリングを行う必要があることを強く感じています。また、得られた結果をわかりやすく・速やかに提供することも重要と認識しております。この点については研究者としてさらに改善が必要であると思いますので、グループなどで協議しながら進めていきたいと思います。(回答者:小松・橋本)
質問61(一般):どのような立地であると放射性物質濃度が低い等、何か森林の放射性物質濃度の分布に特徴はあるのでしょうか。尾根は養分が少なくセシウムを吸いやすいかもしれないとのお話がありましたが、はっきりとしたことは分からないのでしょうか。また、原発事故後のセシウムの分布を見ると原発から同心円状に濃度が分布しているわけではないようで、宮城より岩手の方がセシウムの濃度が高かったりすることに、特徴や傾向はありますか。専門家の方に質問できる機会は滅多になく、恐れながら質問させていただきます。よろしくお願いします。
回答:土壌のセシウム濃度の分布については航空機モニタリングにより大まかには分かります。ただより細かい分布になるとまだ分からないことが多いと思います。森林内のセシウムの分布についてもいくつか研究があり、例えば森林の縁で空間線量率が高くなったという結果が報告されています。
https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2017/20171205-01.html
これは東から来たセシウムの粒子が森の縁の葉に当たったためと考えられます。同様に地形によってセシウムが多く降った/少なく降ったという森林は存在すると思います。ただし、セシウムの状態や分布高度、気象条件などが複雑に影響していると思います。また、空間線量率を同じ森林で何度も調べた結果では、
https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2020/20201023-01.html
時間経過によって空間線量率は減少するのですが、高い場所、低い場所の分布は変わらなかった、となっています。尾根や谷による性質は一般論ですが、必ずその地点のセシウムの吸収が地形で説明できるか、は不明です。おそらく難しいと思います。実際にはその地点の土壌ができる背景(母材・気象・人為の関与など)も関わっていると考えられます。
原発事故後のセシウムの分布(その場にある総セシウム)が原発から同心円状に分布していないというのは、その通りです。堅田さんの発表にあったように、原発からの放出のタイミングと気象条件、地表への落ち方などに影響を受け、複雑な面的分布となっています。
宮城や岩手での調査をあまり行っていないので詳しくは説明できませんが、他の質問でもお答えしたとおり、平均的にはセシウムが降った量が10倍異なればそこの樹木やきのこの濃度も10倍異なることになります。ただ、実際にはセシウムの降った量にも地域内でもばらつきがありますし、生育環境は濃度に強く影響しますので、単純ではありません。(回答者:小松・橋本)