ご挨拶

森林立地学会会長 大久保 達弘

森林立地学は,森林土壌を中心とした森林環境と植生およびそれらの相互作用を対象とした学問分野です。森林立地学会の前身である森林立地懇話会は昭和34年(1959年)に設立され,昨年創立60周年を迎えました。学会創立当初は,戦後荒廃した国土の森林資源の増強を目的とした拡大造林が盛んに行われていた時期で,人工林造成を科学的な知見によって支えることが本学会のミッションのひとつであり,本学会の初代会長である大政正隆先生を中心にわが国の林野土壌分類体系が構築され,適地適木判定の指標として人工林造成の推進に大きな役割を果たしました。その後は木材資源の輸入が急速に進み,人工林の育成段階において十分な保育がなされないまま森林資源の増加が進み,成熟期を迎えつつあります。また近年は異常気象による自然災害の多発,野生動物の急速な増加により荒廃に及んでいる森林も見受けられます。この半世紀の間,日本の森林立地をとりまく状況は大きく変化してきました。

現在,新型コロナウィルス感染拡大の最中にあり,全世界に急速に拡大しつつあります。近年の様々な新規感染症の発生は,森林を含めた地球上の様々な自然生態系の破壊によって細菌やウィルスを呼び起こした結果とも指摘されています。自然及び人為的撹乱に対して強靱で抵抗力のある生態系,持続性のある森林生態系での構成要素間のバランスの確保は今後とも重要な森林立地学の課題であり,森林の育成,保護・保全のみならず,ひいては人類の福利の向上,安全,安心な生活の確保につながるテーマです。

学会では,年2回の学会誌「森林立地(Japanese Journal of Forest Environment)」の編集・発行,日本森林学会開催地周辺での現地検討会やシンポジウムの開催,学会専用Webサイトによる会員相互の交流,情報発信を行っております。とくに創立60周年記念事業では,環境問題に関心を持つすべての方々の活動の一助となることを目指して,森林を測定する方法を解りやすく説明するサイトを立ち上げました。手始めに「気候変動」をテーマに,森林立地環境分野の項目との関連をトピックとして取り上げましたのでご覧ください。

学会は,森林立地に関わる多様な課題に対して,多方面の研究者,技術者,行政担当者や学生・院生とともに取り組み,学校,地域の市民,海外の方々に対しても情報発信することで,学術団体としての社会的評価をさらに高めていく事が期待されています。現在,緊急事態下で急速に普及し始めている多様なメディアを利用した遠隔コミュニケーションは,会員相互の交流のみならず,多方面にわたって森林立地の理解増進を大きく広げる可能性を持っています。今後,会員皆様のご理解ご協力によって,これらのメディアも活用しながら新しい交流の場の創出につながることを期待しています。