第4回: 向井真那さんに聞きました「2023年度森林立地学会誌論文賞研究について」

2023年度森林立地学会誌論文賞を受賞されました向井真那さん(責任著者、受賞時:京都大学、現在:山梨大学 所属)に受賞論文「森林生態系への火山灰加入のリン施肥効果:火山灰加入量の異なるコナラ林の比較検証」について、研究内容や苦労されたところなどをお尋ねしました。

 

-- 受賞おめでとうございます。早速ですが、今回の研究に取り組まれたきっかけや研究の背景を教えてください。

農工大FM多摩調査地

農工大FM多摩調査地(向井氏提供)

向井:日本は火山大国で、森林も火山灰の影響を強く受けています。植物の生長に必須であるリンは火山灰により多く供給されることは先行研究で知られています。しかし、火山灰はその主成分の非晶質鉱物がリンを強く吸着するということも報告されており、火山灰の影響が森林にとって土壌の栄養塩可給性の観点から、プラスに働くのか、マイナスに働くのかはよくわかっていませんでした。そこで、同じような気候帯で火山灰の影響が強いところと弱いところを比較できる日本で、火山灰の樹木への影響を林分スケールで調べてみようということで始めた研究になります。

 

-- 今回の研究でどういうことが明らかになったのですか?

生葉採取の様子(高木氏提供)

向井:今回は日本の8つの森林で調査を行いました。火山灰の影響が強い火山灰土壌の森林を4つ、火山灰の影響が強くない非火山灰土壌の森林を4つです。植生の影響をそろえるために、コナラが優占する森林で調査を行いました。火山灰土壌の森林と、非火山灰土壌の森林では土壌の栄養塩可給性(濃度)が大きく異なり、火山灰土壌としての特徴が強いほど、土壌のリン濃度だけでなく、土壌の交換態陽イオン濃度が高くなることが示されました。どれも植物には必須元素です。また、土壌のリン濃度が高い森林では、葉のリン濃度だけでなく窒素濃度も増加すること、さらにコナラの樹高へもプラスの効果がある可能性が示されました。火山灰の加入によって森林土壌の栄養塩濃度が増加し、それが直接的または間接的に植物への栄養塩可給性を増大させて、樹木の生長も促進させている可能性があります。

 

-- この研究で著者としてここがポイントというところがあれば教えてください。今回の研究はたくさんのサイトでサンプリングされていますね。

土壌採取の様子(向井氏提供)

向井:これまで、地球規模で見ると、風化が強く進んだ熱帯ではリン制限、日本などの温帯域では窒素制限と言われてきました。日本では窒素に着目した研究は多くあるものの、土壌のリン可給性に着目した研究は少ないと思います。今回、8つの森林を調べただけでも、土壌の全リン濃度に約10倍もの大きな差が見られました。地球規模で見れば地理的にも大きな違いはない範囲の中で、施肥などの影響がない森林でこれほどの差が見られたことは驚きです。また、私たちの研究でいろいろな形態の土壌中のリンを比べることで、土壌中で動きにくい(植物に利用されにくい)リンが多くても、樹木はリンを獲得できている可能性があることが示されました。このことは、これまで考えられてきたような火山灰がリンの吸着源として働くのではなく、供給源として機能している可能性を示しており、これまでにない考え方を提示できたと考えています。
 本研究から得られたこれらの点に着目して、私たちはさらに国内で調査地を増やして、コナラのリン獲得戦略について別の観点から精力的に研究を進めています。

 

-- ここれから研究を目指す大学生に一言お願いします。

土壌試料抽出作業(高木氏提供)

向井:研究を進めていて、仮説と違う結果が得られたときはその解釈に頭を悩まされます。私も学生の時は予想通りの結果が得られないことを、不安に思っていました。しかし、そんな時こそ、何か新しい発見なのかもしれないとチャンスとしてとらえ、その結果を自分なりに解釈して面白さを人に伝えられるようになると、一段と研究が楽しくなりました。得られたデータは私たちが自然に問いかけた結果、自然が出してきた答えだと思うと、とてもわくわくします。

 

-- 今日はどうもありがとうございました。

 

取材者:森林立地学会 橋本昌司