2025年度森林立地学会論文賞受賞「多地点土壌観測に基づく海岸防災林植栽基盤の生育環境評価―仙台平野の海岸防災林を対象として―」

2025年度森林立地学会論文賞を受賞した梶原拓人さん(東京都立大学大学院 都市環境科学研究科)に受賞論文「多地点土壌観測に基づく海岸防災林植栽基盤の生育環境評価―仙台平野の海岸防災林を対象として―」の研究内容や苦労されたことなどをお尋ねしました。

 

ーー 受賞おめでとうございます。早速ですが、今回の研究に取り組まれたきっかけや研究の背景を教えてください。特に、この研究は東日本大震災・津波に関する研究ですね。

写真1:植栽基盤の多地点モニタリングを
行っている様子

梶原:2020年3月に初めて、宮城県の海岸防災林再生地を訪れたことがきっかけです。東日本大震災の発生から9年が経過し、翌年には10年という節目を迎えようとしていた時期です。津波によって大きな被害を受けた海岸林が、その後どのように再生されつつあるのかを自分の目で確認したいと考え、現地を訪問しました。実際に現場を訪れると、広範囲にわたって造成された植栽基盤と、その上に植栽されたクロマツ林を目の当たりにし、海岸林再生事業の規模の大きさを強く実感しました。

 一方で、同じように造成され、同じ時期に植栽されたクロマツであっても、場所によって生育状況に大きな違いがみられることにも気づきました。このような生育差がなぜ生じているのか、また、それが植栽基盤の土壌環境とどのように関係しているのかを明らかにしたいと考えたことが、本研究の出発点です。

 

ーー 今回の研究でどういうことが明らかになったのですか?

梶原:今回の研究では、宮城県名取市の海岸防災林再生地において、クロマツの生育差の背景にある植栽基盤の土壌環境を、多地点モニタリングに基づいて面的に評価しました。その結果、土壌の硬さ、水分状態、pH、電気伝導度などの土壌特性は、植栽基盤内で一様ではなく、数メートル単位の細かな空間スケールで大きく変動していることが明らかになりました。このことから、海岸防災林の再生地では、調査地全体の平均的な土壌環境だけでなく、局所的に存在する生育阻害要因を把握することが重要であると考えられます。植栽基盤の空間的不均一性を評価することは、今後の海岸防災林管理においても重要な視点になると考えています。

 

ーー この研究で特に苦労したところ、また著者としてここがポイントというところを教えてください。

写真2:調査地における、植栽から9年が経過した生育不良サイトの様子

梶原:特に苦労したのは、現地での土壌観測をどのような設計で行うかという点です。植栽基盤の土壌環境には細かなばらつきがあることが予想されたため、その違いを捉えるには、どの程度の間隔で、何地点くらい測定すればよいのかを慎重に検討する必要がありました。測定地点を増やせば空間的な特徴は捉えやすくなりますが、その分、現地調査や分析の負担も大きくなります。一方で、地点数が少なすぎると、局所的な生育阻害要因を見落としてしまう可能性があります。そのため、調査の実行可能性と、空間的な不均一性を把握するための解像度とのバランスを考えながら、測定間隔や地点数を設定しました。

 得られた結果の解釈にあたっても、クロマツの生育不良を単一の要因だけで説明するのではなく、土壌の硬さ、水分状態、酸性度など、複数の条件が重なった結果として捉えることを意識しました。東日本大震災後に造成された植栽基盤を、単に樹木を植えるための造成地としてではなく、土壌材料や施工条件の影響を受けながら成立した、空間的に不均一な森林立地として捉え直した点に、本研究のポイントがあると考えています。

 

ーー これから研究を目指す大学生に一言お願いします。

写真3:調査終了後の一枚。厳しい暑さの中、現地調査にご協力いただいた研究室の皆様に深く感謝申し上げます。

梶原:フィールドに関わる研究では、現場に一度行って終わりではなく、何度も通い、同じ場所を見続けることがとても大切だと感じています。最初に訪れたときには気づかなかったことでも、季節を変えて訪れたり、調査を重ねたりする中で、少しずつ見え方が変わっていくことがあります。

 一方で、研究では、得られたデータがどのような時間・空間スケールを捉えているのかを意識することも重要だと思います。対象とする現象や測定項目によって、必要な調査間隔や地点数は大きく変わります。また、得られたデータからどこまでは言えて、どこから先は言えないのかを慎重に判断することも、研究において非常に大切です。

 これから研究を目指す大学生の方には、ぜひフィールドに出て、自分の目で見て、手を動かしながら考える経験を大切にしてほしいと思います。そして、目の前の現象に粘り強く向き合いながら、自分のデータが持つ意味と限界、将来性を丁寧に考える姿勢を持ってほしいです。その積み重ねが、確かな研究につながっていくのだと思います。

 

ーー 今日はどうもありがとうございました。

取材者:森林立地学会 橋本昌司