降水量は、それぞれの地域の森林や植生のタイプを決定する重要な気象因子です。気温と同様、古くから基本的な項目のひとつとして観測されています。
ここでは、いくつかある方法のうち、ポットと漏斗によって比較的簡便に観測できる「貯留型雨量計」を中心に、雨量計や設置場所、測定時の工夫について説明します。
(文責:玉井幸治)
測定方法
雨量計について
貯留型雨量計は、雨水を溜め、その水の量を測る方法です。漏斗で水を集め(写真1)、溜まった水の質量(重さ)を量り(写真2)、雨水の比質量を1として体積に読み替え、漏斗の面積で除することによって降水量(mm)を求めることができます。
ポットと漏斗による簡便な「貯留式雨量計」(写真:久保田多余子氏)
重量計でポットの中の水の質量を量る(写真:久保田多余子氏)
ポット内に溜まった水の体積(cm3) = ポット内に溜まった水の質量(g)
降水量(mm) = ポット内に溜まった水の体積(cm3)/漏斗の面積(cm2)×10
雨量計はほかに、「転倒ます型雨量計」があります。この雨量計では雨が降っている最中での降水量の時間変動を測ることができます。ただし、機械的な動きを利用しているため、機械の調整や管理が必要であり、熟練した技術が必要です。
雨量計の設置場所
雨量計は、地表から空を45度の角度で見回した時の視覚に、建物や樹木などが入らない場所を選んで設置します。周囲に樹木や建物があると、雨滴がさえぎられて漏斗に入る量が少なくなるからです。また、建物の屋上や斜面の上の尾根部などは風が強く、雨量計周辺の風の流れが乱れて漏斗に入る雨滴が少なくなるので、雨量計の設置場所としては不適切です。
測定の工夫
漏斗の中にピンポン球を入れることで、ポットに溜まった水の蒸発やポット内へのゴミの侵入を防ぐことができます。ピンポン球は、雨が降っていない時は漏斗の底に密着してポットを密閉します。雨が降って漏斗に水が溜まるとピンポン球は水に浮き、雨水がポットに流入するようになります。
雨水の水質も調査する場合は、写真のように、ポットを銀色のシートで覆うのも有効な方法のひとつです。太陽光を反射してポット内の水の温度上昇を防ぐとともに、容器内部での苔の発生を抑えることができるためです。(降水量を測定するだけならば、ポットを銀色のシートで覆う必要はありません)
降水量を独自に測定する理由
新たな地点で降水量を測定することは、貴重なデータが得られる機会が増えることになります。
たとえば、ゲリラ豪雨という言葉を聞いたことがあると思います。気象現象としては比較的狭い範囲で発生する現象です。そのため気象庁による観測地点だけではゲリラ豪雨による降水量を的確に把握できません。豪雨を伝えるニュースで、国交省や地方自治体など、気象庁以外の期間による降水量測定値が使われることが最近増えているのは、そのためです。
降水量と植生、気候変動
降水量は気温に劣らず、それぞれの地域に自生する植生タイプを決定する重要な気象因子です。
降水量が比較的多い日本では身近に感じることが少ないかもしれませんが、たとえば、同じ熱帯でも降水量の多い地域から少ない地域にかけて、植生タイプは熱帯雨林、熱帯季節林、熱帯サバンナ林へと推移します。
また、短時間に集中して発生する豪雨や長期間の寡雨は、気候変動によって頻発することが予想されていて、それぞれ、洪水や干害などの災害をもたらします。
気象観測項目の基本的な項目の一つである降水量は、気候変動の実態や、環境、生活などへの影響を考える上でも、重要な項目だと言うことができます。
執筆者より
執筆者は、日本の中でも雨の少ない地域の一つである岡山市にある試験地の担当から、雨の多い地域のひとつである宮崎市にある試験地の担当に移動になった経験があります。岡山市の場合、年平均降水量は 1200mm 程度、少ない年には 800mm 程度です。宮崎市の試験地を担当した初年の年降水量が 4000mm を越えた時には、「何か間違えたかな?」と非常に慌てたことを覚えています。同じ日本でも、地域によって降水量や雨の降り方は違うのです。
参照、関連サイト
詳しくは、この本
森林立地調査法
第Ⅴ章 1降水量、森林立地調査法編集委員会編、156-159p、 1999 博友社、東京