植物季節は、季節によって変化する植物の状態で、昼の時間の長さや、気温などの環境の影響を受けます。
ここでは、「芽吹き」や「開花」「落葉」といった季節現象(フェノロジー)を把握するための、観察木の選定方法や、現象の定義、画像の記録に加え、植物が季節現象を示すメカニズムについても簡単に説明します。
(文責:丹下健・星野大介)
植物季節の調査方法
観察木の選定
複数の観察木を定め、毎年、同じ樹木を観察します。樹冠全体ではなく枝を特定して観察する場合には、樹木の樹高成長によって観察している枝が徐々に樹冠の下層になります。観察木が成長しても日陰にならない枝を選定する必要があります。
現象の定義
植物の季節現象を観察するためには、その現象の定義を明確にする必要があります。
たとえば開芽については、冬芽が膨らみ、開芽してから葉の展開が終了するまで数週間を要する種があり、また最初の冬芽の開芽から樹冠全体の開芽が終了するまでも数週間を要します。どの段階で開芽日とするかについては、統一的な定義がなされていないため、どのような定義で開芽日を確定したかを定め、画像データを保存する必要があります。
紅葉日と黄葉日については、気象庁の生物季節観測方法では、「かえでの紅葉日とは、標本木全体を眺めたときに、大部分の葉の色が紅色に変わった状態になった最初の日」、「いちょうの黄葉日とは、標本木全体を眺めたときに、大部分の葉が黄色に変わった状態になった最初の日」と定義しています。
カキノキの緑葉
カキノキの紅葉
観察と記録
3日おきに観察木の樹冠もしくは枝の写真を同じ位置から撮影し記録し、画像に基づいて紅葉日や黄葉日などの季節現象の日を確定します。画像のデータがあることで、他者のデータや、年ごとのデータとの比較も可能になります。
気象庁が行っている「生物季節観測の情報」は、気象庁のホームページに掲載されています。
植物季節の発生メカニズム
植物は、決まった季節に芽吹き、開花し、落葉するなどの季節現象(フェノロジー)を示します。
花芽は、日出から日没までの昼の時間(日長)の季節変化に応答して形成されます。春に花を咲かせる植物もあれば、夏や秋、冬の植物もあります。日長がある長さよりも短くなったことに応答して花芽が形成される短日植物は、夏から秋にかけて開花します。
また、花芽が膨らみ開花に至るためには温量が必要です。ソメイヨシノのように冬季に低温を経験することによって花芽の休眠が打破され、その時から花芽の形成が始まる種もあります。遺伝特性が同一であるソメイヨシノの開花日が地域によって異なり、同じ地域でも年によって異なるのはそのためです。
寒い冬のある地域に生育する樹木は、寒くなる前に冬芽を形成して冬を迎える準備をします。日長の変化と気温の変化との関係は緯度によって異なり、緯度が高いほど日長と気温の年間での変化が大きくなります。様々な地域から集めたブナを一カ所で生育させて観察した例では、元々の生育地の緯度が高いほどより早い時期に冬芽形成が誘導される傾向が示されており、生育地の環境への遺伝的適応が認められています(中田・中山 1995)。
植物季節から、気候の特徴をつかむ
身近な植物の動きを見つめ続け、測定を続けることで、その場所のその年の気候の特徴を知ることができます。現在でもサクラの開花は、決まった枝を測定して開花の宣言を判断しています。植物季節には気温や降水量など複数の気象要因が影響すると考えられています。
近年、温暖化に代表される気候変動が顕在化し、季節外れの高温や低温が観測されることが頻繁になってきました。季節外れの低温は、早霜や遅霜などの気象害の原因となります。温暖化しても日長の季節変化は変わらないことから、自然植生にどのような影響が生じるかが危惧されます。
執筆者より
コツコツと同じ対象物の測定を続けることは、たいへん根気のいることです。1年間の変化パターンがわかれば、対象物にまったく動きがみられない季節は、ある程度、測定する間隔を空けてもよいでしょう。
参照、関連サイト
reference
中田誠・ 中山昇:産地の異なるブナの成育状況とフェノロジー.新潟大学農学部演習林研究報告,Vol.28, pp.17-28,1995年02月
関連サイト
詳しくは、この本
森林立地調査法
第Ⅱ章 3植物季節の測定、森林立地調査法編集委員会編、51-52p 1999 博友社、東京