樹木は、幹の太さと高さの変化で、成長が表されます。樹木の集合である森林についても、林内の樹木の平均値や合計から把握することができます。
また、幹の太さと高さに、樹種ごとに決められている係数を掛け合わせていくことで、バイオマス(生物体量)や、蓄えられている炭素量の変化などを、非破壊的に推定することもできます。
ここでは、森林の樹木を調査し、非破壊的にバイオマスを算定する原理と方法を解説します。森林総合研究所が公開している「幹材積計算プログラム」を用いて、樹木のバイオマスを算定した実践例も紹介します。
(文責:丹下健・星野大介)
測定と算出の方法
バイオマスの算出方法
バイオマスは、「生物体の乾燥した状態の質量」(以下「乾重量」という)です。
樹木の直径と樹高を測定し、樹種ごとに決められている係数を掛け合わせていくことで、樹木の体積や乾重量を算出することができます。
バイオマスの算定はほかに、乾重量を実際に計測することでも求められますが、樹木を伐採する必要性が生じます。今回紹介する方法は、簡便なことに加え、森林を破壊する必要がない点も優れています。
調査区設定
対象とした森林に、方形の調査枠をつくります。
留意点:樹木の集団である森林の成長量やバイオマスを測定する場合には、樹種構成や樹木の大きさが代表的な場所に調査区を設定します。何年にもわたって測定を続ける場合には、測定する樹木に番号を付しておく(写真のようなナンバーテープ等を利用)ことが必要です。
道具:50m以上のメジャー、コンパス
毎木調査
調査枠内の胸高(1.2m)の幹の周囲が6cm以上の全ての樹木を対象に、
-
- 樹種
- 胸高の周囲長(cm)
- 樹高(m)
を測定します。
留意点:調査が済んだ樹木には、チョークで横線などを引いて、調査が済んでいない樹木と区別しておきます。メジャーはどのようなものでも大丈夫です。写真のメジャーは「0」の先に片手で握れる遊び部分が付いているので測定する時に便利です。
道具:樹木図鑑、2~3mのメジャー、赤白ポール、チョーク
測定データの入力
パソコンに樹種、周囲長、樹高のデータを入力します。 周囲長を円周率で除して直径を求めます。
留意点:四捨五入で2cmごとに括約した直径データに変換するのが一般的です。
道具:パソコン、表計算ソフト
バイオマスの算出
まず、樹木の胸高直径と樹高から、樹木の体積(以下「幹材積」という)を推定します。主要な樹種について調整されている、胸高直径と樹高を変数とした「立木幹材積表」や、「幹材積計算プログラム」などを活用します。
この幹材積に、樹種ごとに異なる幹の容積密度(全乾比重)を乗じることによって、バイオマスを求めることができます。さらに、材の容積密度(全乾比重)、幹の乾重量と地上部全体(幹、枝、葉)の乾重量の比(拡大係数)、地上部乾重量に対する地下部乾重量の比を乗じて個体全体の乾重量を算出します。
調査枠内の全樹木の乾燥重量を合算することで調査枠の中の森林のバイオマスが求められます。
留意点:バイオマスは一般的に、面積1ヘクタール(ha)あたりの量を計算し、トンまたはメガグラムに変換して表します。結果的に単位は(t/ha)または(Mg/ha)となります。
道具:立木幹材積表、容積密度係数、パソコン、表計算ソフト
(実際に計算している様子を見るとイメージしやすいと思いますので、このあとの実践例もご確認ください)
算出の目的と工夫
樹木の成長を確かめるだけであれば、簡易的に、直径と樹高の時間変化を見ることも方法のひとつです。しかし、材積式を用いて材積の時間変化を計算すれば、「成長量」を具体的な数値をして求めることができます。
同じ森林を定期的に測定し、バイオマスの経時変化をモニタリングする場合には、乾重量ではなく、対象林地の幹材積の総和である「蓄積」を指標として用いることが多いです。胸高直径と樹高から求まる幹材積の精度が、比較的高いためです。
バイオマスは、「材積」に、さらに「密度」を掛け合わせて求める生物体量(乾重量)です。
生物体量を推定すると、どんな用途に使えるでしょうか。たとえば地球温暖化に対して樹木の生長や死亡が反応しているものと考えられています。生物体量を定期的に測定することで、測定対象を破壊することなく、その変化を知ることができます。
また近年、各地でバイオマス発電所が稼働しています。その発電原料には付近の森林の樹木も使われています。森林所有者が発電所に樹木を伐採して持ち込む前、所有する森林にはどのくらいの樹木量があるのか正確に見積もりたいとき、生物体量を算定することが役に立つと考えられます。
バイオマスの算出と記録は、地上部(葉、枝、幹の合算量)量だけでなく、地上部と地下部(根)に分けたバイオマスも併記しておくと、結果の比較がしやすくなります。
立木幹材積表について
立木幹材積表は、日本林業調査会から発行されているほか、東日本の森林については、(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所で公開している幹材積計算プログラム(https://www.ffpri.affrc.go.jp/database/stemvolume/index.html)も利用可能です。このプログラムは北海道以外の地域では、胸高の位置を地上1.2mとしていることに注意して胸高の直径を測定して下さい。、留意事項についても確認した上で利用して下さい。
係数の一例
拡大係数 (20年生以下) | 拡大係数 (21年生以上) | 地下部/地上部比 | 容積密度(t/㎥) | ||
---|---|---|---|---|---|
針 葉 樹 | スギ | 1.57 | 1.23 | 0.25 | 0.314 |
ヒノキ | 1.55 | 1.24 | 0.26 | 0.407 | |
アカマツ | 1.63 | 1.23 | 0.27 | 0.416 | |
カラマツ | 1.5 | 1.15 | 0.29 | 0.404 | |
トドマツ | 1.88 | 1.38 | 0.21 | 0.319 | |
エゾマツ | 1.92 | 1.46 | 0.22 | 0.348 | |
イチョウ | 1.51 | 1.15 | 0.18 | 0.451 | |
広 葉 樹 | ブナ | 1.58 | 1.32 | 0.25 | 0.573 |
カシ | 1.52 | 1.33 | 0.25 | 0.629 | |
クヌギ | 1.36 | 1.33 | 0.25 | 0.668 | |
ナラ | 1.4 | 1.26 | 0.25 | 0.619 | |
ケヤキ | 1.58 | 1.28 | 0.25 | 0.611 | |
カエデ | 1.33 | 1.17 | 0.25 | 0.519 | |
日本国温室効果ガスインベントリ報告書より |
ここでは、森林の炭素貯留量を求めるために国全体の森林バイオマスの算定に用いられている林齢によって2区分した拡大係数を例示しましたが、実際の拡大係数は樹木が大きくなるに伴って徐々に小さくなります。また表に示した地下部/地上部比と容積密度も平均的な値であり、同じ樹種でも成長状態や品種によって異なります。したがって、上記方法によって算定された森林バイオマスは大きな誤差を含む場合があることに注意が必要です。
また、皆伐して一斉に植林したスギやヒノキの人工林のような同齢単一樹種の森林においては幹乾重量と枝や葉の乾重量との間に相関関係があり、地上部乾重量と地下部乾重量との間にも相関関係があることが知られています。これらの相関関係は、樹種によって異なり、厳密には同じ樹種でも林齢や場所によって異なるため、正確なバイオマス推定にはそれぞれの森林で相関関係を調べる必要がありますが、平均的な相関関係を用いることによって大まかなバイオマス推定を行うことができます。
実践:試しに1本、測定してみよう
樹木の測定
試しに1本の樹木のバイオマスを測定してみます。
家の庭や公園などに生育している樹木の中から、測定木を決めます。
ここでは茨城県にある1本の樹木を選びました。
【樹種と直径の測定】
まず樹種を判定します。
これはスギですね。常緑針葉樹です。
胸高(1.2 m)の幹直径と、樹高を測定します。
幹の1.2 m の高さ(長さ)にメジャーを巻きます。斜面に生育している樹木の場合は、山側に立って高さを測ります。幹の後ろ側にコブがないか、メジャーが斜めになっていたり、裏返っていたりしていないか確認します。
コブがあったら上か下にずらして、1.2 mにこだわらずに通直な場所を選びましょう。
メジャーを2~3回左右によくしごいて、幹の周囲長の数値をmm単位で記録します。
測定が終わったら、次回の調査用に、測定箇所にはマジックや木材チョークなどで横線などをつけておくとよいでしょう。
【樹高の測定】
つぎに樹高を測ってみましょう。
樹高を精度良く測る場合には、測高桿や超音波デジタル測高計を用います。
おおよその樹高を求める場合には、対象木に長さ2 mの赤白ポールを立てて、高さ(長さ)を目測する方法もあります。根元と同じ高さに2 mの棒を立てます。まず根元から樹冠の先端まで高さを半分にします。さらにそれを半分にします。その高さと2 mの棒の高さを比較します。このスギは、棒8本分の高さ、約16 mがあると見えます。
【計算】
以上により、つぎのような樹木のデータが得られました。
樹種:スギ 胸高の幹周囲長: 146.8 cm 樹高: 16 m
胸高の幹直径: 146.8 cm ÷ 3.14 = 46.8 cm(以後、胸高直径と呼びます)
【誤差を少なくする工夫】
胸高直径と樹高の測定は誤差が大きいと、幹材積の推定値に大きな影響を及ぼします。とくに毎年や、複数年毎に測定し経年変化を追跡する場合は、より精度の高い測定方法を選択する必要があります。
特に、樹高はどんな方法や道具を使っても、最終的には人間の目が「高さ」を判断(あるいは想像)します。手もとで触りながら周囲長を測って求める直径と比べても、どうしても測定誤差が大きくなります。大きな樹木であればあるほど、その先っぽ(梢端)は高くなって見えにくくなり、幹・枝が判然としない広葉樹であればなおさらです。
そのためAさんが測定した樹高が10 m、Bさんが測定した樹高が9 mだったというようなことが起こりえます。Aさんが目視で測定した樹高が10 m、同じAさんがデジタル測量機械で測定した樹高が9 mだったというようなことも起こりえます。この結果、それぞれで推定した材積は10%程度も異なってしまいます。本当の値は対象とした樹木を伐採しないと得られませんが、これは現実的ではありません。
このような測定者や測定方法による誤差を減らすためにはどうしたらよいでしょう? 一番に重要なことは、方法や道具にかかわらず、対象とした樹木の最も低い部分と最も高い部分の両方が見える「測定場所を選ぶこと」です。できるだけ離れたところから根元と梢端部分を見る。山の中なら対象樹木の斜面上側に回って見る。このように、人間の目で想像する範囲を極力へらすことで、測定誤差を減らすことができます。
幹材積計算プログラムの使い方
幹の材積を計算してみましょう。
森林総合研究所が開発した「幹材積計算プログラム」を活用して、樹種、胸高直径、樹高を入力して幹材積を計算します。
【プログラムのインストールと設定】
まずプログラムをインストールします。注意書きを読んで承諾してから、ページ最後のダウンロードボタンを押します。
得られた圧縮ファイルが、ダウンロードフォルダに保存されます。
新規作成したフォルダ「幹材積計算プログラム」に圧縮ファイルを移してみます。圧縮ファイルを右(B)クリックして「全て展開」すると、同名のフォルダが作られました。
同名のフォルダの中には、「幹材積計算プログラム」と「幹材積計算プログラム説明書」の2つのファイルがあります。
幹材積計算プログラム説明書を読んでから、幹材積計算プログラムを開きます。「コンテンツの有効化」を選択します。
このあと、なにも入力などせずに「名前をつけて保存」しますが、保存するときのファイル形式をExcelマクロ有効ブックからExcelアドイン形式で保存します。
ファイルを閉じて終了します。
つぎにExcelを起動して新規ファイルを作成してみます。ここでは新規ファイルの名前はそのまま「book1」にしました。そして「ファイル」->「オプション」->アドイン->「設定」->「幹材積計算プログラム」をチェックします。これで幹の材積の計算式がインストールされました!
【材積の計算】
ここから、幹の材積の計算を始めます。
得られたデータを次のように入力してみました。
つぎに立木幹材積のセルを選択してからfxボタンを押して、計算式「stemvolume」を選び入れます。
樹種(Name)、胸高直径(D)、樹高(H)のあるセルを、計算式にひとつひとつ指定してOKを押します。
これで計算できるはずが、結果は「スギという材積表は収録していません」。
どうやら、このままではうまくいかないようです。。。
【樹種を入力する際の留意点】
説明書をよく読むと、こうした樹木サイズ(胸高直径や樹高)と幹材積の関係には地域性があるということでした。なので、単なる「スギ」ではなく、「地域名+スギ」の名前を樹種に入力しなければなりません。
説明書の中に、地域ごとの対応表がありました。茨城県は「東京」の区分に対応するとありますね。
東京エリアのスギは「東京スギ」と入力するように指示がされていました。
「東京スギ」と樹種名に入力し直すと、
うまく計算できました!
このスギの幹材積は、1.17 m3であると推定できました!
バイオマスの計算
上記の幹材積から、幹の乾燥重量(バイオマス)を計算します。
国立環境研究所地球環境研究センターの「日本国温室効果ガスインベントリ報告書 —2008年5月—」の219ページを見てみましょう。
219ページの「表 7-4 森林簿樹種のBEF、Root-Shoot ratio、容積密度数」の中に、容積密度:Dという値が示されています。容積密度とは、乾燥していない木材 1 m3あたりの乾燥重量のことです。この係数を幹材積に掛けることで幹の乾燥重量を求めることができます。スギの項目を見ると容積密度は0.314 (t / m3)と示されています。
1.17 × 0.314 = 0.367
このスギの幹の重量は 0.367 t (367 kg) であると推定できました。
炭素に換算する場合、0.5を掛けます。
このスギの幹の炭素量は 0.184 t (184 kg) と計算できました!
よくある質問
【調査枠の大きさは?】
Q: 調査枠はどのくらいの大きさが必要ですか? 形はどんなものがよいですか?
A: 対象とした森林のうち、何を知りたいのかによって、調査枠の面積や形、数が変わります。地形によって森林内の樹木の種や大きさが変わるなら、それらが含まれるように広く大きく調査枠を設定することがあります。あるいは小さな調査枠を森林内にたくさん設定して調査することもあります。しかし、それらは設定と測定にたいへん時間がかかってしまいます。 まずは、全体の地形や森林のタイプを歩いて見回ったうえで、代表的な場所を決めて、実施可能な大きさ、形の調査枠で測定をおこなうことをお勧めします。
【枯れ木の扱いは?】
Q: 枯れ木がありました。樹種名もわからないのですが、測定するべきでしょうか?
A: 枯れ木は死んでいますので、生物体量(バイオマス)の測定対象にはなりません。しかし重要な炭素の格納庫(炭素プール)として、別の方法で測定されることがありますので、詳しく知りたいときは森林土壌の炭素蓄積量調査のWebサイトを見てみてください。
【係数がない樹種は?】
Q: 樹種名に対応する立木幹材積表を探したのですが、見つかりません。どのように現地の調査後の計算をしたらよいでしょうか。
A: 全ての樹種について、立木幹材積表が作成されているわけではありません。なので、生活型(広葉・針葉、常緑・落葉、高木・低木)がよく似た樹種の立木幹材積表を探して、代用して使いましょう。そのときは計算方法に、代用したことを明記しましょう。
気候変動と森林のバイオマス
関連サイト
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詳しくは、この本
森林立地調査法
第Ⅱ章 6 成長量測定法、8バイオマスの測定 森林立地調査法編集委員会編、63-64p 2010 博友社、東京