土壌侵食

土壌侵食の測定方法(森林立地調査法第Ⅵ章 4土壌侵食・表層土の移動)

簡便調査法(林床被覆率による土壌保全度測定法)

林床被覆率による土壌保全調査法

 森林土壌の保全は、森林の多面的機能の基盤となる重要な要件の1つである。有機物に富む表層土壌が発達し、侵食の危険にさらされることなく土壌が安定して存在することが、森林がさまざまな機能を発現するために必要とされる。ここでは、土壌侵食に最も強く影響する林床被覆率を評価することで、土壌侵食の潜在的な危険度を評価する方法を解説する。土壌侵食の強度を直接観測するには、土砂受け箱あるいは土壌侵食測定枠を用いて斜面上を移動流出する土砂を捕捉して重量を測定する方法があるが、機材を必要とし試料の処理にも手間がかかる。その代わりに、土壌侵食の強度を決める最も重要な因子である林床の被覆状態を調べて、侵食強度を間接的に推定する方法を紹介する。この調査方法は、林野庁による森林生態系の多様性に関する全国調査においても採用されている。(林野庁、 森林生態系多様性基礎調査 http://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/tayouseichousa/naiyou.html)

 

  1.  

 日本のように降水量が多く温暖な地域では、斜面の土壌侵食は水食と呼ばれる降水由来の水の力により発生する。降水の雨粒(雨滴)が地表を打撃する力は思いのほか大きい。地表の土粒子を数10cmの高さにまで跳ね飛ばす力があり、小礫も斜面をずり落ちるようにして移動させられる。1cm以上の礫になると容易に動かされないので、その周囲が削られて土柱(図1)が形成される。そのような状況下では、地表の粗大な孔隙が細粒物質で埋められてクラストと呼ばれる薄い難透水層が形成される。地表面が目詰まりを起こしてクラストが形成されると、地表に到達した降水が地面に染み込まなくなり表面流が発生する。地表の流水には削剥力があるので、地面が削られ土砂が流出する。表面流侵食で削られた深さ30cmまでの溝をリル(雨裂、図1)と呼ぶ。リルが形成された後も流水による侵食が続くと深さ30cmを超える深い溝(ガリー、図1)の形成へと侵食が進行する。このように、森林の土壌侵食は雨滴侵食から表面流侵食、さらにリル侵食、ガリー侵食へと段階的に症状が激化する。これを防ぐには、初期の雨滴侵食が発生しないように森林の林床が下層植生や堆積リター(林床被覆という)で覆われている状態を維持することが重要となる。

 

                

(a)                       (b)                        (c)

  図1.土柱(a)、リル(b)、ガリー(c)の例

 

 以上のような土壌侵食の強度は、侵食力を表す「降水」と、降水による斜面の侵食されやすさを表す「土壌」「斜面長」「斜面傾斜」「林床被覆」の計5つの因子で決定される。これらの中で、林床被覆は、降水が地面に直接衝突することを防いで侵食力をなくしたり弱くする働きがある。森林に降った雨水は林冠に捕捉されたのち、林外の雨よりも大きな雨滴に変換され、林内雨として地面に落下する。落下高が高いほど雨滴の衝撃力(=侵食力)は大きくなる。およそ5mの高さから落下する林内雨は、林外の雨と同程度の侵食力を持っている。そのため、林冠が閉鎖した10〜15年生以上の森林の下では、林冠に捕捉されて大きくなった雨滴により林外よりも強い侵食力が生じている。林床の被覆は、このような雨滴による地面への衝撃を直接防ぐので、侵食強度を評価する因子として最も適している。それに加えて、林床被覆は森林の植生タイプや林齢、間伐などによって、1年から数年の短い期間で劇的に変化し得る因子であり、森林管理を通して人為的にコントロール可能である点において、森林管理上の特に重要な因子であるといえる。

  1.  
  • 80cm以内にある「林床被覆」「下層植生」「巨礫・岩」が占める面積割合を10%単位で目視判定する。5%未満は0%に区分する。林床被覆とは、下層植生あるいは堆積リター(植物遺体)のいずれかを指す。下層植生は、股下程度の高さまでの植物、植物の根系、コケ類などであり、林床被覆を構成する内訳を把握するために調べる。巨礫・岩は、大きさ20cm以上の礫あるいは岩とする。苔むした岩は林床被覆に区分する。
  •  

 

図2.林床被覆率及び土壌侵食痕調査のための参考模式図

(林野庁「森林生態系多様性基礎調査マニュアル」より転載)

  1. 4×6mあるいは5×5m程度、狭くする場合は0.5×0.5mあるいは1×1m程度まで選択可能である。広い区画の場合は、10m程度離して2か所以上、狭い区画の場合は1〜2m程度離して5〜10か所程度を、対象林分の均質性などを考慮して平均的なデータが得られるように設定する。
  2.  
  3. 1か月程度の短い期間に集中して多点調査を行う。森林タイプ毎に3〜5林分程度調査を行えば、森林タイプによる傾向が認められる可能性が高い。調査林分数は多くするほど傾向をとらえやすくなる。
  • 1回の調査を行えばよい。ただし、下層植生の季節的な変化も知りたい場合には、定期的にひと月またはふた月に1回程度の頻度で調査を行う。
  1.  

 林齢の異なるヒノキ林における林床被覆率と土砂移動量を同時に観測した結果から、林床被覆率が10%減少すると土砂移動量が66%増加することが明らかにされている(図3)。こうした結果から、林床被覆率を30%から80%に増加させれば土砂移動量が10分の1に軽減できることが確認されたので、林床被覆率80%が土壌保全を図るための1つの目安とされている

 

 

図3.ヒノキ林の林床被覆率と土砂移動量の関係

(Miura et al.(2015), Fig.7を加筆修正)